「太宰ロック」制作秘話・MV解説 〜今、もやもやしている君へ〜
こんにちは、okutani(@okutani_t)です。最近、自身のオリジナルソング「太宰ロック」のMVを制作・公開しました。こちらから見れます。
イラスト(アニメーション)は人気インスタ漫画家のズズズさんにお願いしました。
LINKzzz(ズズズ)(@zzz_illust) • Instagram写真と動画
また、ズズズさんの書いた以下のnoteも合わせて読むと、より制作の裏側を知れると思います。
LINK【blog】「太宰ロック MUSIC VIDEO」が出来るまで。|ズズズ|note
「太宰ロックが生まれた背景」「ズズズさんとの出会い」「MV制作秘話」「解説」などについて、つらつら書いていこうと思います。
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もくじ
太宰ロックの背景
太宰ロックは僕が高校3年生のころの実話を元に、作詞作曲しました。
– 太宰ロック 歌詞 –
教室の隅でぼんやり
学校の帰り道でもやもや
何かが違うと自問自答を繰り返し
空ばかり眺めていた学生時代クラスの誰とも口をきかない日々が続き
休み時間が苦痛で泣きだしそうで
逃げるように転がり込んだ図書室の一番下の段に
褪せた灰色の背表紙で太宰治太宰ロック
人間失格 斜陽 パンドラの匣
あなたの文字の一つひとつが僕に語りかけた
学校に行けなくなってしまった僕を
あなたは優しく包んでくれた太宰ロック
太宰ロック 君が歌う ダサいロック三鷹の街にさくらんぼ色の風が吹いて
玉川上水の空は肌色で
ドラッグの色は透明な青
山の頂上は今は腹痛で見えないけどうまくいかないことばかりさ
ダサいロック聴いていつも心は不安定
だけど今日を生きている
今日を、日々を、今を生きている太宰ロック
太宰ロック / 奥谷タイスケ
曲自体は2年前(28歳)ぐらいのときに作詞作曲しました。
ほとんど曲のとおりで、高校3年のときにクラスの誰とも話せなくなって、卒業まで学校に行かなかったです(卒業自体はしています)。
高校3年になって何やってるんだ、って話ですが、そのときは真剣に悩んでいました。
そのとき、高校の図書室で太宰治に出会って、全集を頭から読みました。
そのときの経験が、今の自分にとてつもなく影響しています。
特に、「女生徒」のこの一節。
私たちは、決して刹那主義ではないけれども、あんまり遠くの山を指さして、あそこまで行けば見はらしがいい、と、それは、きっとその通りで、みじんも嘘うそのないことは、わかっているのだけれど、現在こんな烈しい腹痛を起しているのに、その腹痛に対しては、見て見ぬふりをして、ただ、さあさあ、もう少しのがまんだ、あの山の山頂まで行けば、しめたものだ、とただ、そのことばかり教えている。きっと、誰かが間違っている。わるいのは、あなただ。
LINK太宰治 女生徒
この言葉は、今でも僕の生きる糧になっています。
帰り道は空を見上げては、あれこれ恥ずかしいことを思い出し俯き歩き、いつもと変わらない通学路をぼんやり眺めながら、ときには涙をこらえ、もやもやを抱えながら帰宅していました。
それでも、それをバネに頑張れたのは女生徒の言葉があるからです。
ズズズさんとの出会い
ズズズさんはインスタで漫画を描かれている方です。僕はこの「トレモロ」という作品で知りました。
最初は普通に1ファンでした。トレモロが最終回を迎えるまで、かかさず読んでいました。
ズズズさんは本業は社会人で、仕事終わりや土日の時間を使って漫画を描かれています。
時間がない中でインスタで長編漫画を描かれていることにとても感心していました。
なので、ズズズさんとやりとりをすること自体、一度も、まったくなく、むしろ顔すら知らないまま、ときは過ぎていきました。
2019年コミティアにて
あるとき、ズズズさんが「コミティア」というイベントに参加されることを知りました。2019年8月のことです。
ズズズさんの他に、同じくインスタで漫画を描かれている「かかし21号さん」も参加されるということで、かかしさんの漫画のファンでもあった僕はコミティアに行くことを決意。
かかしさんのグッズやズズズさんの「トレモロ製本版」を購入し、その日は帰宅しました。
その後、コミティアの報告漫画内に僕が「プチ登場」することに気がつきます。左下から2番目の髪の長いやつが僕です。これはのちにズズズさん本人から「奥谷くんだよ」とお墨付きをいただきました。
憧れの人の漫画にちらっとでも出られたことが嬉しく、僕は速攻でこのことを母親に報告しました笑(母親はインスタ自体知らなかったので「い、いんすたね、うんうんすごい」と言っていました)
もしかすると、この出来事がなかったらズズズさんと気軽にDMはできなかったかもしれません。この出来事からもズズズさんの人柄のよさが伝わってきますね。
その後、かかしさんが下北沢でオープンマイク(誰でも参加OKのライブイベント)に出るということで、見学に行き、そのときの打ち上げで、かかしさんとズズズさんと初めてちゃんとお話をしました。2020年1月ごろ。なぜか僕はひたすら「LOVE理論」という本について熱く語っていました。
※画像はズズズさんのインスタストーリーより
このことも一コマエッセイにしてくれたり、この出来事からズズズさんの人柄のよさが(パート2)。
この日から、ズズズさんとDMでちょこちょこやりとりするようになります。
太宰ロックMVをズズズさんに作って欲しい!
そんな中、せこせこと音楽活動(主にオープンマイクに参加するぐらいですが…)を続けていて、今年の7月に「チャバネゴキブリの恋」「太宰ロック」の2曲をレコーディングすることになります。
そこでふと思ったのが「ズズズさんにMVを作ってもらったらどうなるだろう…」と妄想がはじまります。
太宰ロックはテーマがすこし重いこともあり、オープンマイクではそこまで反響がよくない曲でした。
自分の中ではうまく作詞も作曲もできたな、と思っていたのと、メッセージ性が強い曲なので「いろんな人に知ってもらいたいな」と思っていた曲でした。
そんな中、ズズズさんは弾き語りで太宰ロックをカバーして音源を送ってくれたり、太宰ロックに対して熱を込めて話してくれました。
「太宰ロックのMVを作るなら、世界でズズズさんしかいない」
そう思うようになり、DMでMVの制作について話を持ちかけました。
これはZoomミーティングの第1回資料。
このプレゼンのおかげもあり、ズズズさんはMV制作を快く受け入れてくれました。
Zoomや、下北のコワーキングスペース(いいオフィス)を使って打ち合わせを重ねました。
今日は下北沢でミーティング。zzzさん @zzz_illust とクリエイター談義めっちゃ楽しかった?笑
とてつもなく良い作品ができそう!!!! pic.twitter.com/ck3xqlQhwF
— okutani (@okutani_t) July 4, 2020
びっくりしたのが、打ち合わせなのに「めちゃくちゃ楽しかった」ことです。
僕からしたら尊敬するクリエイターのズズズさん。インスタのフォロワーも多く、僕なんか話すことすら恐れ多いぐらいでした。
その方と一緒にものづくりができる。しかも、こんなに楽しく。
作品づくりの事以外の話もとても意気投合して(恋愛の話とか)、打ち合わせの回数も合計したら計10回ぐらいにはなっていたと思います。
フルアニメーションで作りたい!
制作する中で、以下の条件をズズズさんに提示しました。
- フルアニメーションで作りたい
- ズズズさんの作品にして欲しい
この二点は、僕の中でマストでした。
ひとつめの理由は、「ズズズさんのイラストが動いたらどうなるのだろう」というワクワク感もそうですし、フルアニメーションにすることで「見ている人に本気度が伝わる」ということが大きな点でした。
太宰ロックの世界観やテーマがすこし重いため、かんたんに作れるMVだと見ている人に伝わらないかと思ったからです。
ちなみに、ズズズさんは「アニメーション制作を今まで一切やったことがない」というのもあり、最初は制作自体できるか分からなかったそうです。それでも、快く受け入れてくれたズズズさんは本当にすごい人だと思います。
そしてふたつめの理由。太宰ロックのMV自体をズズズさんの作品にしてもらうことで、ズズズさんの活動の幅が広がったり、ポートフォリオとして、自分のひとつの武器として、太宰ロックMVをズズズさんの代表作として、ぜひ利用して欲しいと思ったからです。
(金額は公表しませんが、制作費としてお互い納得のいく金額で僕からズズズさんにお支払いしています。アニメーション制作の相場よりだいぶ安く引き受けていただきました。感謝しかありません)
僕はズズズさんの作品を今までずっと見ていました。正直、僕はズズズさんはもっといろんなところで評価されるべきだし、これからも漫画やイラストでどんどん活躍して欲しいと思っています。
それは「個人のクリエイター同士」だから、というのもあります。
僕も音楽活動は個人でやっていて、いつも苦悩しまくって曲をつくったりオープンマイクに参加したりしています。以前にこんな文章も書いています。
かれこれ一年半ぐらい、吉祥寺の駅前にある音楽教室に通っている。
僕はギターと歌を習っている。
月に1回、原宿に生徒を集め、ライブレッスンという「人前で歌を披露するレッスン」がある。
自主参加のレッスンなのだが、僕は毎回、予定さえ合えば参加するようにしていた。
「していた」というのは、今日で参加は最後にしようと思っているからだ。
個人のクリエイティブに、正解はないかもしれません。
ただ、自分の理想はある。なりたい自分がいる。でも、自分の仕事もあるし、やることはたくさんある。
そんな中で、個人のクリエイターは土日や空いた時間を使ってせこせことクリエイティブしているわけです。
そんな個人クリエイター同士が、自分の作品をぶつけたらどうなるのか。そういったワクワク感もありました。
蓋を開けてみると、打ち合わせすればするほど、熱が入り、下北の三日月ロックという居酒屋で5時間ぐらい作品に対する想いや、MVの設定について延々と熱く語る夜もありました。
お互いに30代。いい大人です。
そんないい大人が、バカみたいに熱くなって一つの作品作りにあーだこーだ本気で話し合う。
学校の文化祭みたいな、いや、その熱量の100倍ぐらい、間違いなく僕らは青春していたと思います。
ぜひ、この話の流れも含めてズズズさんのnoteも一緒に一読してみてください。ずーーっとひたすら熱いです笑
太宰ロックMV解説
最後にかんたんですが、太宰ロックのMVの解説をしていこうと思います。
まずは先にMVを見てから、この解説を読むとぐっと作品の世界観に入れると思います。なのでまずはMVを見てから、ぜひ読み進めてください。
太宰治に出会うまで
少年は太宰に出会うまで、憂鬱な学校生活を送っています。
ここでポイントなのは「色がなく線だけで表現されている」ことです。
サビまでは、学校生活の心象風景を、より憂鬱でけだるい感じで表現するため、あえて色を入れていません。
ただ、注意深く見ていくと「少年が自分の靴を眺めているシーン」では色が入っています。
これは「少年自身はきちんとその場で世界を認識している」というメッセージが込められています。
色がない学校生活でも、本人自身はきちんとその場で物事を認識しているし、きちんと頭も働いているんです。
ただ、学校生活全体を見てみると、色がまったくない。
目の前の物事はきちんと捕らえられているのに、全体を見るとなぜかうまくいかない。
そんな世界観をこのシーンでは表現しています。
サビで大人の自分と向き合う
図書室で太宰に出会い、サビで大人になった自分と出会います。
このシーンではじめて色がつきます(色といっても黒のベタ塗りですが)。色がつく理由は先ほどの理由のとおり「太宰に出会った」からです。
少年は、ヒゲ面でなぜかギターを弾いて歌っている「大人になった自分」と出会います。
学校生活に絶望していた少年は、大人になった自分が「太宰ローック♪」と歌っているのをみて、とっさに走り出します。
ここのシーンはこまかく解説する必要はないかと思いますが、「大人になった自分は”自由”に生きている」「太宰というワードを口にしている」ことから、少年が太宰と出会ったことの重要さを物語っています。
少年は、太宰に出会う事で、もやもやとしていた学校生活や自分の人生にきちんと向き合うことを決めます。
結果的には、少年は学校に行かなくなります(実は、このシーンで女の子も一緒にいなくなっており、ラストシーンへの伏線になっています)。
太宰に出会ったから行かなくなったのか、それとも元々学校に行かないことを初めから決めていたのかについては、ここでは触れません。
三鷹の街に〜
「三鷹の街にさくらんぼ色の風が吹く」。この歌詞の意味は、太宰好きにはすぐ分かるかもしれませんが、三鷹にある太宰のお墓に関連しています。
多摩川上水で自殺した太宰の遺体があがった6月19日を「桜桃忌」として、三鷹市禅林寺に全国の太宰ファンが集います。桜桃は太宰の作品のひとつです。
私も一度、桜桃忌に太宰のお墓に行ったことがあります。そのときに、みなさんがさくらんぼをお供えしているのを見て、「三鷹にさくらんぼ色の風が吹いている」と感じました。
三鷹の街にさくらんぼ。
その日はとてもいい天気で、お墓に赤いさくらんぼが映えていたことを覚えています。僕にとっては特別な1日になりました。
次に「玉川上水の空の色は肌色で」。これは分かりやすいと思いますが、玉川上水で太宰が入水自殺したことを表しています。
「ドラッグの色は透明な青」。これはすこし考えたんですが、ドラッグに苦しんでいた太宰がドラッグをやっているときの色ってどんな色だろう?と考えて出てきた詩です。
世界が透きとおり透明に見えて、青色で包まれている印象がしました。
僕はドラッグをやったことはありませんが、きっと透明な青色なんじゃないかなと思います。
ラストシーン
ラストシーンは、今まで電車のワンカットしか出ていなかった「少女」が登場します。
話の流れを考えると、この少女も少年と同じく、学校に行けなくなってしまった1人です。
お腹をさすっている様子から、腹痛を抱えていることが分かります。
少女はヘッドフォンで音楽を聴いていて、おそらく、ロックを聴いています。それも周りのみんなが聴かないであろう、ダサいロック。
周りに浮かんでいる言葉は、今まで誰かに言われた言葉や、少女自身の言葉です。
このシーンはズズズさんと一緒に何度も頭をひねり、どうやったら短いシーンで少女の苦悩を表現できるか。いろんな意見を出しまくって生まれたシーンです。
そしてこのシーンでのポイントは、彼女はまだ「太宰に出会っていない」ということです。
ここでの太宰は、ゴッホでも、ビートルズでも、あいみょんでも、たまたますれ違った友達でも、なんでもいいんです。彼女は「生きる糧になる何か」にまだ出会っていない。
ちなみに、爆笑問題の太田光さんは、学生時代にピカソを見て感情を取り戻したとインタビューで答えています。とても素敵なエピソードだと思いました。
参考爆笑問題・太田光「死んでもいいと思っていた…」|テレ東プラス
そしてこのあと、全力で走る少年を見て、少女の周りに浮かんでいる言葉が消えて笑顔になります。
そう、少女にとっての太宰は「バカみたいに走っている少年」だったんです。
誰かにとっての太宰ロック
ラストのシーンで伝えたかったのは「誰もが太宰になれるし、誰もが太宰ロックを歌える」ということです。
この作品で、僕はただそれを伝えたかったんです。
少年がもがいて苦しんで走っている姿を見て、少女はきっと、自分の足で一歩を踏み出す。
それは、子供大人関係なく、誰しもが誰かの太宰になれるし、誰しもが人の人生を変えられると思っています。
そして、太宰ロックという曲自体が、そういう存在になれたら、僕は太宰ロックを作って本当によかったなと思えます。
最後のシーンでは、太宰がこちらを見てにっこりと微笑んでいます。
少年と少女を遠くで見守っているかのように、微笑んでいます。
最後に
このMVを最後まで一緒に走りきり、全力で向き合って制作してくれたズズズさんに本当に感謝します。感謝してもしきれません。
何度もなんどもズズズさんに修正の依頼をするのはかなり勇気がいりましたが、それでも真剣に向き合って何度も修正に付き合ってくれたズズズさんがいたから、ここまで全力で向き合って素晴らしい作品にすることができたんだと思います。
また、リリースにあたり、作品に共感し拡散してくれた方々、熱い感想コメントを送ってくれた方々、すべての方に感謝します。どうもありがとう。
これからも僕はせこせこと個人で曲を作って、また誰かとこうやってコラボできたらいいなぁと思っています。欲を言えば、来年の夏もズズズさんと何か一緒に作品が作りたい。。笑
最後までお読みいただきありがとうございました。太宰ロックはこれからも、何かしらでちまちま活動していこうと思っています。
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