下北沢と希薄さと
30分。その人は家で寝ていたらしい。
好印象だった。
下北沢の夜。
僕はその人がくるまで、ゆっくりと一人で下北沢の街を散歩することにした。
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とある下北沢の夜
下北沢の古着屋たちは、自分が1番輝いているんだと各々が主張し、目一杯のライトアップでキラキラ光っていた。
街を彩るウインドウ。僕はもちろん入る勇気をこれっぽっちも持ち合わせていない。外からチラチラ眺めるだけで十分だった。
僕の好きなアーティストも、こういった店で洋服を買っているのだろうか。もしかしたら、今もこの店にいるかもしれない、そう思うと、すこしだけ嬉しくなった。
でも、ときめきが表に出て、下北沢の街の人や、古着屋の店員さんに後ろ指さされないよう、決して悟られないよう、感情を押し殺し、横目にやりながら通り過ぎる。
街を賑やかす下北沢の飲み屋、テラス席。お酒とタバコを嗜んでいるロックな方々をよく見かけた。腕にはみんなタトゥーが入っていて、30〜50代ぐらいが多かった。どの席もとても楽しそうに談笑している。
なんとなく、自分とは違う世界なのだけど、変な親近感がわいた。僕も30歳を過ぎたら、あんな感じになっているかもしれない。いや、それはないか。
南口のマックの前。その人はかるく頭を下げながら、さらっと現れた。初対面。
ショートカットが似合う黒髪の女性。やっぱり好印象だった。
もともと会う前に、唐揚げとハイボールのお店に行こうと決めていた。
まぁそんな感じだから当たり前のように、予約もなしに、ふらっとお店の前へ。席は空いていて、席につくなりすぐに唐揚げとハイボールを頼んだ。
僕の一つ上の歳のその人は、美大出身で、今はコーディネーターの仕事をしていると話していた。
僕がぜんぜん知らない世界。美大出身の人とちゃんと話す機会も今までの人生でなかった。話すことすべて新鮮だった。
舞台やCMでの仕事の話もたくさんしてくれた。
仕事の話をしてるときに、ときおり見せる笑顔が素敵だった。
まだ二人とも飲み足りなかったので、二軒目へ。
カフェバーと言うのだろうか。間接照明が店内を薄明かりのオレンジ色に染めており、黒いソファーに反射した淡い光が、その人の周りを優しく包んでいた。お洒落なお店だった。
その人は「友達とよくここで深夜にケーキを食べてるんだ」と言っていた。目の前のあなたは、一体どんな友達とここでケーキを食べているんでしょう。ふと想像してみたら、その人とその友達が笑顔で席を囲んでいて、なんだか知らないけど僕もつられて笑顔になった。
その人は赤色のお酒をずっと飲んでいた。あぷりなんちゃら、みたいな名前で、ソーダで割っているお酒らしい。僕はあまりお酒の種類を知らないので、その程度の情報しか頭に残っていないのが残念だ。お酒にもっと詳しくなりたい。
お店の雰囲気も合わさって、その人の年齢が、18歳なのか、はたまた40歳なのか分からないぐらいに、妖艶な空気を纏っていて、一軒目の雰囲気から打って変わって15倍ぐらいにミステリアスさと魅力的さが増していた。
僕はウイスキーのロックを頼んだ。3杯ぐらい飲んだ。
時間はあっという間に過ぎた。僕の終電がなくなった。
別に変なことを考えていたわけじゃないけど、なんとなく、その人ともっと喋りたかった。今思うと、とても迷惑かけていた気がする。
三軒目。その人の行きつけの店へ案内してくれた。
その店は、これぞ下北沢、といった具合の、お店だと知らなければ誰も扉を開けないような、そんな佇まいだった。
店内は湿ったタバコの煙が漂っていて、丁寧にいうとリーズナブルで、味のあるお店だった。すごくワクワクして、ドキドキした。
僕とその人は奥の座敷の席に対面で座った。50歳過ぎぐらいの、まるで深夜トイレに行くぐらいの面持ちで、めんどくさそうに注文を聞きに来る店長であろう男性に、ハイボールを二つ頼んだ。
その人はおもむろにタバコに火をつけた。
今までのお店では吸ってなかったから、それまで僕に遠慮してくれていたんだろう。なんだか申し訳なくなった。
音楽の話をたくさんした。
いろいろ話したけど、星野源の話と、在日ファンクの話が印象に残っている。
SAKEROCK時代の星野源がとても好きで、ライブによく行っていたこと。
ロッキンでトリの在日ファンクを見たとき、隣の高校生が興奮気味に「お姉さんも在日ファンク好きなの?」と話しかけられた話。別のアーティストを見ていた友達と在日ファンクが見たいと一致して、集合した話。
話をしてるときタバコの灰がぽろっと、下に落ちた。
スカートに、5mmぐらいの穴が開いてしまった。
その穴はよく見ると、ハートマークになっていて、なんだかとても可愛らしかった。
今までミステリアスに見えていたその人が、急に、おっちょこちょいな人に見え、僕はすこし可笑しく、一気に距離が近づいた感じがした。
それと同時に、僕はやっぱり、その人に申し訳なく思ってしまった。
希薄
朝が来て、僕らは駅で別れた。
「今度、吉祥寺のラーメン行こう」
なんて話しながら別れた。
なんとなく、僕の頭の中には『希薄』という言葉がよぎっていた。
人と人とは完全には分かり合えない。
ましてや、人間関係の構築なんてめんどうなこと、一生懸命やることがバカらしく、こと初対面の相手ならなおさらだ。
そして、それを理解している自分自身の希薄さも、僕自身、しっかりと気付いている。
お風呂の水に牛乳を一滴。ぽちゃん。
それぐらいの希薄さなんだ。人と人との繋がりなんて。
繋がっているように見えても、気分一つで、あっけなく無くなる。
わりかし、当たり前のことなんだけど。だけど、だけどもさ。
下北沢のキラキラした古着屋に感じたときめきと恥じらい。
お皿に並んだ11個の唐揚げとハイボール。
淡いオレンジ色の光で包まれたその人の横顔。
スカートに空いたいじらしくて可愛らしいハートの穴。
希薄なんて言葉でかんたんに表したくないと思った。
本当はみんな、激情の中に生きているんだ。なのに、僕らはいつも通り、平和を装っている。
出会って、別れる。
その当たり前が、本当は当たり前じゃないことなのに。
家に着いた。
いつも通りの儀式。
死を思い浮かべ、ベッドに潜る。
ぐっと、目を閉じる。
すこしだけ、動悸。
顔が歪む。
飛んだように寝た。
無事に迎えた当たり前の朝をぼんやり見つめる。
「今日も生きてた」
希薄さが薄く湿っていた。
あと何滴垂らしたら、希薄な心は満たされるのだろう。
その日、僕は斉藤和義の「歩いて帰ろう」を100回聴いた。
嘘でごまかして 過ごしてしまえば
頼みもしないのに 同じような朝が来る歩いて帰ろう / 斉藤和義
これから僕は、下北沢の街に触れるたび、あの人のことを思い出すんだろう。
もうすこしだけ明るくなりたいと思った。
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